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臨床応用可能な老化細胞除去薬の同定に成功!アルツハイマー病など加齢関連疾患への治療応用の可能性――順天堂大学の研究成果

老化細胞除去薬
(画像= ACworks / 写真AC、La Caprese)

2024年5月30日、順天堂大学(本部所在地:東京都文京区)の研究グループは国立研究開発法人日本医療研究開発機構(本部所在地:東京都千代田区)の支援等により、すでに臨床応用されている薬剤から、加齢関連疾患への治療応用を可能にする老化細胞(※1)除去薬を同定し、その作用機序を明らかにしたと発表した。

これまで加齢により組織に老化細胞が蓄積し、慢性炎症(※2)が誘発されることで様々な加齢関連疾患の発症や進行につながることが少しずつ明らかになってきたが、病的な老化細胞を除去する薬剤で、大きな副作用の懸念がなく、臨床応用可能なものはないのが実情であった。そうした中、順天堂大学の研究グループは、糖尿病の治療薬として開発されたSGLT2阻害薬(※3)が、加齢や肥満ストレスに伴い蓄積する老化細胞を除去することで、代謝異常や動脈硬化、加齢に伴うフレイル(※4)を改善するばかりでなく、早老症マウスの寿命を延長しうることを本研究で確認した。順天堂大学の研究グループは、本研究成果について、アルツハイマー病を含めた様々な加齢関連疾患の治療への応用の可能性を示唆している、との見解を示している。

本研究の概要は以下の通りである。

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順天堂大学、臨床応用可能な老化細胞除去薬の同定に成功

本研究成果のポイント

▽糖尿病の治療薬であるSGLT2阻害薬が、老化細胞除去薬として作用する
▽lSGLT2阻害薬によって、様々な加齢関連疾患における病的老化形質が改善する
▽lSGLT2阻害薬は、免疫チェックポイント分子を制御することで免疫系による老化細胞除去を促進している

老化細胞に選択的に作用し、副作用の少ない治療法の開発を目指して

加齢や肥満などの代謝ストレスによって、生活習慣病やアルツハイマー病などの加齢関連疾患が発症・進展することが知られているが、その仕組みはよく分かっていないのが実情であった。そうした中、順天堂大学の研究グループはこれまで30年以上にわたって加齢関連疾患の発症メカニズムについて研究を進め、加齢やストレスによって組織に老化細胞が蓄積し、それによって引き起こされる慢性炎症が、加齢関連疾患の発症・進展に関わっていることを明らかにしてきた。さらに最近、蓄積した老化細胞を除去(セノリシス(※5))することで、加齢関連疾患における病的な老化形質を改善しうることが示されていた。

しかしながら、これまで報告されている老化細胞除去薬は、抗がん剤として使用されているものが多く、副作用の懸念があった。そこで本研究では、より老化細胞に選択的に作用し、副作用の少ない治療法の開発を目指して研究を進めた。

SGLT2阻害薬による老化細胞除去効果

加齢に伴うストレスによって染色体損傷が発生すると細胞はがん化を防ぐため老化し、細胞分裂を停止する。このようにして組織に蓄積した老化細胞は、SASP因子(※6)という炎症分子を分泌することで免疫系を活性化し、自らを除去されるようにプログラムされている。しかし、何らかの原因でこの除去機構が働かないと、老化細胞の蓄積が長引き、組織の慢性炎症とそれに伴う加齢関連疾患の発症・進展につながる。

一方以前より、カロリー制限によって寿命が延長することが知られているが、カロリー制限によって寿命が延長した個体では、加齢に伴う老化細胞の蓄積が抑制されていることも知られていた。順天堂大学の研究グループは、尿への糖の排出を促進することで、血糖を低下させる糖尿病治療薬(SGLT2阻害薬)の投与によって、カロリー制限を模倣した状態となり、老化細胞の蓄積が抑制され、その除去が促進されるのではないかと考えた。

老化細胞除去薬
(図1) SGLT2阻害薬によって、老化細胞除去機構を担う免疫系が活性化され、老化細胞が除去されることによって、慢性炎症が改善する。 出典:順天堂大学

そこでまず、高脂肪食によって肥満させたマウスにおいて、短期間のSGLT2阻害薬の投与を行ってみたところ、内臓脂肪に蓄積した老化細胞が除去されるとともに内臓脂肪の炎症が改善し、糖代謝異常やインスリン抵抗性の改善がみられた。これとは対照的に、短期間のインスリン投与によって肥満マウスの高血糖を改善しても、内臓脂肪に蓄積した老化細胞は除去されず、内臓脂肪の炎症も改善しないことが判明した。これらの結果により、SGLT2阻害薬による老化細胞除去効果は、血糖の改善とは関連なく、特有の効果であることが分かった。その作用機序を明らかにするためにメタボローム解析を行ってみたところ、SGLT2阻害薬の投与によって、AICARというAMPK(※7)を活性化する代謝産物が増加していることが判明した。実際、様々な実験からSGLT2阻害薬の老化細胞除去効果にはAMPKの活性化が重要であることが明らかになった。さらにAMPKの活性化は、特に悪性度の高い老化細胞でその発現レベルが上昇している免疫チェックポイント分子(PD-L1(※8))を抑制することで、老化細胞除去機構を担う免疫系を活性化し、老化細胞除去を促進することが明らかとなった。

老化細胞除去薬
(図2) SGLT2阻害薬によって老化細胞が除去され、肥満に伴う糖尿病や動脈硬化、加齢に伴うフレイルの改善、早老症マウスの寿命の延長が認められた。 出典:順天堂大学

同様にSGLT2阻害薬の投与は、高コレステロール血症によって形成が促進された動脈硬化巣から老化細胞を除去することで、動脈硬化プラークの縮小を促進していた。また、 SGLT2阻害薬の投与により加齢に伴うフレイルの改善や早老症マウスの寿命の延長などを観察することができた。

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アルツハイマー病などの加齢関連疾患への治療応用の可能性

今回、順天堂大学の研究グループは加齢関連疾患に対する新しい治療法の確立に向けて新規老化細胞除去薬を同定し、その作用機序を明らかにした。これまでの老化細胞除去薬は、抗がん剤として使用されているものが多く、その副作用が懸念されていたが、SGLT2阻害薬は老化細胞除去を担う免疫系を活性化することで老化細胞除去を促進する点において、新しいクラスの老化細胞除去薬であり、副作用の懸念も少ない治療薬となる。本研究では、糖尿病や動脈硬化、フレイルに対する改善効果や早老症に対する寿命延長効果を確認できたことで、今後はアルツハイマー病を含めた様々な加齢関連疾患での検証や、ヒトへの臨床応用が期待される。■

用語解説

(※1) 老化細胞:様々なストレスによって染色体に傷が入ることで不可逆的に細胞分裂を停止した状態になった細胞。細胞老化は、がん発症抑制機構の一つ。
(※2) 慢性炎症:老化細胞によって分泌される炎症性サイトカインによって引き起こされる非感染性炎症。
(※3) SGLT2阻害薬:SGLT2は腎臓の近位尿細管に局在するナトリウムグルコース共輸送体。その阻害によって糖質を尿へ排出するため、糖尿病の治療薬として使用されている。
(※4) フレイル:加齢などに伴って身体機能が低下している状態。
(※5) セノリシス:老化細胞を選択的に除去すること。
(※6) SASP因子:細胞老化関連分泌形質因子。多くは炎症性サイトカイン。
(※7) AMPK:細胞内のエネルギーが不足すると活性化するリン酸化酵素。AMPやその類似代謝産物であるAICARによって活性化される。
(※8) PD-L1:細胞の表面に発現しているタンパク質で、免疫細胞であるT細胞の表面にあるPD-1と呼ばれるタンパク質に結合し、免疫細胞の働きを抑制して「攻撃をしないように」と免疫の働きにブレーキをかける役割をしている。

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