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歯みがき行動は、むし歯を予防するだけではなく、自律神経に影響を与え、前向きな心理状態に変化させるーーライオンの研究成果

歯みがき,自律神経
(画像= Canva、La Caprese)

「歯みがき行動は、むし歯を予防するだけではなく、自律神経に影響を与え、前向きな心理状態に変化させることを確認」――。2024年5月24日、ライオン(本社:東京都台東区)からそのような研究成果が公表された。

歯みがき,自律神経
(図1) 仮説の概略図(ブラッシングによる触覚刺激が自律神経および心理状態に与える影響) 出典:ライオン

口腔は、髪の毛1本でも異物と感じるように、感覚が非常に鋭敏な部位の一つである。また、大脳皮質の中で感覚をつかさどる領域の約30%が、口腔の感覚に関わっているとも言われており(※1)(※2)、近年では食物を噛むことや歯茎への触覚刺激が、自律神経に影響することが示唆されている(※3)(※4)。これらを踏まえ、ライオンは口腔内への触覚刺激を生じさせる動作である「歯みがき(ブラッシング)行動」も、自律神経に影響を与え、心身を調節する可能性があるのではないかと考えた。そこで本研究では、ブラッシングによる触覚刺激が自律神経活動および心理状態に与える影響を検証した。

ライオンの研究成果は以下の通りである。

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歯みがき行動は、むし歯を予防するだけではなく、自律神経に影響を与え、前向きな心理状態に変化させる

本研究は、20~40歳代の成人20名(男性9名、女性11名)を対象とし、ハミガキをつけずに5分間ブラッシングした際の自律神経と心理状態(気分)に与える影響を、ブラッシング前後で比較した。自律神経活動の指標として、ウェアラブル心拍センサーを用いて、交感神経活動の指標であるLF/HF値を測定した。また、心理状態の指標として、TDMS-ST(二次元気分尺度:8項目の質問に回答し、安定度・活性度・快適度・覚醒度の4種類の心理状態を計測)を用いた。結果は以下の通り。

自律神経活動:交感神経活動が低減

心拍測定の結果、ブラッシング前と比較して、ブラッシング後では、LF/HF値が有意に減少し(p<0.05)(図2)、交感神経活動が低減したことが判明した。

歯みがき,自律神経
(図2) 自律神経活動の測定結果 出典:ライオン

心理状態:活気があり、快適な心理状態へと変化

TDMS-ST法による評価の結果、ブラッシング前と比較して、後では活性度・快適度・覚醒度が有意に増加した(p<0.05)(図3)。ブラッシングによって、活気があり、快適な心理状態へと変化したことが示された。

歯みがき,自律神経
(図3) 心理状態(TDMS-ST)の評価結果 出典:ライオン

以上の結果より、歯みがき(ブラッシング)行動は自律神経活動を整え、前向きな心理状態へと変化させることから、心身をリフレッシュする効果があることが考えられる。■

本研究について、専門家の解説

杏林大学名誉教授
医学博士・精神科医
古賀良彦 氏

この研究は歯みがき(ブラッシング)行動のリフレッシュ効果を心理検査、自律神経活動測定により検討したものです。その結果、ブラッシングによって交感神経活動が低減することと関連して、活性度や快適度、覚醒度が上昇するという結果が得られました。これまでブラッシングによって心地よさがもたらされることは経験的には知られていました。しかし、今回のようにストレス対処としての有用性を、生理心理学的側面から多次元的に明らかにした研究は他に例がありません。

従来、ブラッシングは口腔衛生目的で朝と晩に行うことが習慣とされることが多かったと思います。今回の結果は、例えば、昼食後にもブラッシングを行えば、自律神経のバランスが整って、午前中の生活によって生じたストレスが緩和され、仕事のパフォーマンス(生産性)が向上する可能性があることを示唆するものです。このように、歯みがき行動は、既存の口腔ケア目的に留まらない、心身を整える新たな習慣として、ウェルビーイング(well-being)の実現に貢献できると考えられます。

注釈

(※1)Penfield W., Boldrey E. Somatic motor and sensory representation in the cerebral cortex of man as studied by electrical stimulation. Brain 60, 389-443 (1937).
(※2)Y. Tamura et al., Oral structure representation in human somatosensory cortex. NeuroImage 43, 128-135 (2008).
(※3)Y. Hasegawa et al., Circulatory response and autonomic nervous activity during gum chewing. Eur J Oral Sci. 117, 470-473 (2009).
(※4)K. Ichinose et al., Decreased Frequency of Mental Workload-Induced Subjective Hot Flashes Through Gum Massage: An Open-Label,Self-Controlled Crossover Trial. Women’s Health Reports 3, 1, 335-343 (2022).

 

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