2024年4月16日、武蔵野大学(所在地:東京都西東京市)と帝京大学(所在地:東京都板橋区)、スイス・ローザンヌ大学(所在地:ヴォー州ローザンヌ)の国際共同研究で、「水虫の治療薬テルビナフィンの自然耐性に関与するタンパク質TrPtk2を同定し、胃酸抑制薬オメプラゾールをテルビナフィンと併用することでテルビナフィンの作用を増強できる」ことが判明した。
本研究は、武蔵野大学 薬学部 薬学統合企画 共同研究ユニット『アンメットメディカルニーズを満たす新薬創生プロジェクト』と国内外の研究者とが協調することで得られた成果であり、近年報告の増加しているテルビナフィン耐性白癬菌に対する新たな治療薬の発見に繋がるものと期待されている。
なお、本研究成果は世界最大の生命科学系学会の1つである米国微生物学会(American Society for Microbiology: ASM)が出版するAntimicrobial Agents and Chemotherapy誌に報告された。また、本研究成果は国際連合が定めた「持続可能な開発目標(SDGs)」のうち、「3.すべての人に健康と福祉を」に貢献するものである。
国民病とも呼ばれる「水虫」、日本の罹患者数は2,500万人超と推計
白癬(はくせん=水虫)は国民病とも言われ、日本人の足白癬(あしはくせん)の罹患率は21.6%と推計されている(※1)。日本の人口が1億2,000万人であることから、罹患者数は2,500万人以上に上ると推測することができる。
ちなみに、水虫などの真菌(カビなど)による感染症治療薬はその種類が限られており、真菌の増殖に必要な細胞膜成分であるエルゴステロールの生成を阻害して、真菌の増殖を抑える抗真菌薬が主に用いられている。その中でも費用対効果が高く世界的に使用されているのがテルビナフィンだ。しかしながら、近年はテルビナフィンに耐性を示す薬剤耐性真菌が発見され、日本国内でもテルビナフィン耐性白癬菌の報告が続いている。これからの耐性菌のさらなる蔓延に対応するため、新たな治療法の開発が求められている。
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白癬菌のテルビナフィン耐性に関与するタンパク質TrPtk2を同定
本研究では、新たな抗真菌薬標的を探索するため遺伝子組換え技術を用いて、白癬菌のもつ機能未知タンパク質TrPtk2を欠損させた変異株を作出したところ、野生株(遺伝子組換えをしていない元の菌株)と比べ、TrPtk2欠損株ではテルビナフィンを加えた培地(※2)における菌の成長が抑制される状態(感受性)になることが判明した(図1)。これは白癬菌以外の真菌も感染症を引き起こし、臨床上問題となる。そこで、白癬菌だけでなく他の真菌種においてもPtk2がテルビナフィンの自然耐性に関与するかを知るために、一般的に実験室で用いられている真菌の一種である出芽酵母を用いて調査した。
その結果、出芽酵母においてPtk2タンパク質を欠損するとテルビナフィンの抗菌活性が上昇することを見出した(図2)。これらのことから、Ptk2タンパク質が種を超えてテルビナフィンに対する自然耐性を付与することが示唆され、Ptk2が感染症を引き起こすさまざまな真菌に対する抗真菌薬を探索するうえで有力な標的候補であることが明らかになった。
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プロトンポンプ(※3)阻害剤オメプラゾールは、テルビナフィン耐性白癬菌に対し、テルビナフィンの抗菌活性を上昇させることを発見
ところで、Ptk2は細胞膜上のプロトンポンプPma1を活性化することが知られている。白癬菌のTrPtk2もプロトンポンプPma1を活性化し、テルビナフィン耐性をもたらすのではないかと考え、プロトンポンプ阻害剤として知られる胃酸抑制薬オメプラゾールを作用させた際のテルビナフィン感受性を確認した。その結果、テルビナフィン耐性白癬菌においてテルビナフィンに部分的な感受性を示すことが分かった(図3)。
以上の研究成果から、白癬菌TrPtk2-TrPma1経路が、近年報告が増加しているテルビナフィン耐性白癬菌に対する新たな治療標的となり、新規医薬品の発見につながるものと期待される。■