2024年3月13日、花王(本社:東京都中央区)感覚科学研究所・ハウスホールド研究所は、洗たく後もタオルに残るニオイと繊維に潜む「バイオフィルム」の相関を見出す研究成果を発表した。同時に、本研究では発生するニオイ成分は、酸っぱいニオイを有するイソ吉草酸やヘキサン酸といった脂肪酸と特に相関があることも判明した。
衣類の不快なニオイに悩む生活者の声は多く、特に衣類・タオルの戻り臭、部屋干し臭は洗たくしても落としにくいと認識され、気になったことのある人の4割弱が完全に落とすことが難しいと回答している(2022年 花王調べ)。特にタオルについては、「洗たく後には気にならないが、顔を拭くときに繊維の奥から嫌なニオイが湧きたってくる」「部屋干し臭を完全にはなくせない」といった声があり、洗たくしているにもかかわらず不快なニオイを感じてしまう場面が多々ある(2020年 花王調べ)。
花王はこれまでに、工場の排水設備、一般家庭のキッチンや浴室などの水回り、さらには口腔内など、身の回りのさまざまな場所に存在して悪影響をもたらすバイオフィルムについて幅広く解析し、対処技術を研究してきた。「バイオフィルム」とは、菌が分泌した多糖やタンパク質を含む菌体外マトリクス(Extracellular Polymeric Substances:以下 EPS)と菌の複合体のことだ。洗たくにおいては、使用を重ねることでタオルの繊維の隙間にバイオフィルムが形成されるケースがあること、バイオフィルムは落とすことが難しく、くすみなどの原因となっていることを確認してきた。そこで、本研究では洗たく後もタオルに残るニオイとバイオフィルムとの関係を詳しく解析した。
今回は花王の研究成果を紹介したい。
生活者からの回収タオルのニオイの強さとバイオフィルムの関係を検証
本研究では一般家庭で洗たくされた中古タオル386枚を回収し、特にニオイの場所に偏りがあるタオル5枚を選定した。次に、選んだタオルを3×3cmに裁断し、ニオイ専門評価者が官能評価(無臭から強烈なニオイまでの6段階)を行なった。さらに、タオル1枚につきニオイの強さが異なる部分4カ所、計5枚のタオルで20カ所のバイオフィルムの量(主成分のEPS量)を測定した。
その結果、ニオイ官能強度とタオルに残存するバイオフィルム量に相関があることが判明した(図1)。このことから生活者のタオルにはバイオフィルムが局在して存在し、不快なニオイが強く臭う部分にはバイオフィルムが多く存在することが明らかとなった。
次に、バイオフィルムが多い部分にはどのようなニオイ成分が発生しているのか解析した。
部屋干し状態のタオルから発生するニオイ成分とバイオフィルムの関係
タオルのニオイ成分とバイオフィルムとの関係を解析するため、回収したタオルを洗たくし、部屋干し状態を再現するため高温・高湿度下(37℃、湿度100%、24h)で密閉しながら保管したのち、室内にて乾燥した。その後、5×6cm角にタオルを裁断し、タオルのニオイ評価とニオイ成分の分析、続いてバイオフィルム量の解析を行なった。(図2)
ニオイ成分の分析には花王独自のScentEYE®(セントアイ)技術を用いた。この技術は、ニオイを捕集するシートをニオイ発生源にのせニオイ発生源の位置情報と合わせることで、ニオイの位置と強さの分布を再現(可視化)することが可能である。また非侵襲でニオイを高効率に捕集して分析することが可能なため、今回この技術を用いることによりニオイ成分とバイオフィルム量を同時に測定することが可能となった。
測定の結果、4-メチル-3-ヘキセン酸のような極微量の中鎖脂肪酸は今回の測定では検出限界以下であったが、イソ吉草酸やヘキサン酸といった脂肪酸がバイオフィルム量と相関があることが判明した(図3)。これらの脂肪酸は部屋干し臭・戻り臭でもよく感じられる酸っぱいニオイで、花王は過去の研究でこれらが部屋干し臭や衣類のニオイの強さと相関することを突き止めている。
これらの結果から、洗たくをしても落としきれていないバイオフィルムが多い場所には洗たく後に部屋干し臭や戻り臭と関連のある悪臭成分が多く発生することを確認した。
悪臭の発生にも関与するバイオフィルム
本研究では、タオルに残存するバイオフィルムがタオルの風合いや見た目に影響するだけでなく、悪臭の発生にも関与していることが示唆された。バイオフィルムを除去することにより、ニオイの発生源も除去することにつながり、洗たくをしても落ちにくい部屋干し臭や戻り臭といった嫌なニオイの解決につながると考えられる。花王は、今後も衣類のニオイ発生の本質解明を行い、その課題を解決する洗浄技術の開発を進める方針である。■
(La Caprese 編集部)