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肥満タイプ別iPS細胞から褐色脂肪細胞の分化に成功――ディーエイチシーと東京医科歯科大学の研究成果

褐色脂肪細胞
(画像= Canva、La Caprese)

『ヒトiPS細胞由来褐色脂肪細胞の活性化作用因子スクリーニング系の開発』――。2024年3月26日、ディーエイチシー(本社:東京都港区)は東京医科歯科大学との共同研究で、そのような成果を発表した。

肥満は生活習慣病のリスクファクターであり、特にメタボリック症候群の主な原因とされている。そうした中、近年は脂肪燃焼作用をもつ「褐色脂肪細胞(Brown Adipocyte; BA)(※1)」が病的肥満に対する新たな治療標的として注目されている。そこで、本研究では、「日本人に多い肥満関連遺伝子タイプ(※2)」を背景として、ディーエイチシーで樹立した遺伝子タイプ別のiPS細胞(※3)を用い、東京医科歯科大学独自のBA分化誘導技術を応用することで、抗肥満効果をもつBA活性化作用因子のスクリーニング系の開発に取り組んだ。

なお、本研究成果は2024年3月21日~23日に開催した第23回日本再生医療学会総会(新潟)において、口頭発表した。本研究成果の概要は以下の通りである。

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肥満タイプ別iPS細胞から褐色脂肪細胞の分化に成功

まず、専用プレートを用いた培養法では、辺縁整の細胞凝集体(スフィア)(※4)が得られた(図1, 写真左)。このスフィアについて、脂肪滴を特異的に染色したところ、細胞の核周囲にはBA特異的な多数の小さな脂肪滴が観察された(図1, 写真右)。

褐色脂肪細胞
(図1) iPS細胞から分化させた褐色脂肪細胞 出典:ディーエイチシー

そこで、BA特異的遺伝子であるUCP1(※5)の遺伝子発現を調べたところ、未分化状態と比べて高い発現上昇が確認できた。以上のことから、安定的かつ高効率なiPS細胞由来BAの作製に成功した。

ちなみに、ディーエイチシーは今後の展開について、ヒトBAを対象とした抗肥満効果をもつ活性化因子のスクリーニングと解析を進める予定であることを明らかにした(図2)。

褐色脂肪細胞
(図2) BA活性化因子スクリーニングの流れ 出典:ディーエイチシー

上記の通り、遺伝子タイプ別に樹立した細胞をターゲットとした機能性食品成分の抗肥満効果を明らかにすることで、経口摂取を前提とした健康食品やサプリメント等の改良や、オーダーメイドサプリメントなど日本人の体質に沿ったダイエット対策製品の新規開発が期待できるという。ディーエイチシーのさらなる研究開発が注目されるところである。■

(La Caprese 編集部)

用語説明

(※1)褐色脂肪細胞 (Brown Adipocyte; BA):ヒトの鎖骨上部や傍脊椎部に分布し、脂肪を燃焼し熱を産生する働きを担っています。
(※2)日本人に多い肥満関連遺伝子タイプ:肥満関連遺伝子として、ベータ3アドレナリン受容体遺伝子多型(糖質代謝不全型)、脱共役タンパク質1遺伝子多型(脂質代謝不全型)、ベータ2アドレナリン受容体遺伝子多型(タンパク質代謝促進型)の3種類が知られています。これらの遺伝子に変異がない場合は、生活習慣起因型としています。
(※3)iPS細胞 (induced pluripotent stem cell, 人工多能性幹細胞):人工的に作成されたあらゆる生体組織に成長できる細胞です。京都大学の山中伸弥教授らが2006年に世界で初めてiPS細胞の作製に成功し、2012年にノーベル医学・生理学賞を受賞しました。
(※4)辺縁整の細胞凝集体 (スフィア):一般的なシャーレでの細胞培養とは異なり、3次元的に培養した細胞の塊の形状のことです。縁が整った球状になっていることを示しています。
(※5)UCP1 (Uncoupling protein 1):日本語で脱共役タンパク質1と呼ばれており、褐色脂肪細胞の分化マーカーの一つです。褐色脂肪細胞のミトコンドリアに局在し、ミトコンドリアでの酸化的リン酸化を脱共役させる活性を持っています。

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